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日本の色彩史を調べるための主要資料

日本の伝統色や色彩文化を調べるときには、色名だけでなく、その色が記された文献、服色を定めた制度、当時の染織品などをあわせて確認する必要があります。

資料によって、確認できる内容も異なります。法令からは身分と服色の関係、歴史書からは制度や出来事の記録、文学作品からは色彩表現や美意識、現存する染織品からは染料や技法を検討できます。

このページでは、日本の色彩史を調べるうえで重要な史料・資料と、色彩に関わる主な制度や出来事を年代順にまとめています。

現在は、飛鳥時代から平安時代までを掲載しています。各項目について原典、翻刻、研究書、公的機関の資料などを確認しながら、内容を順次追加・更新していく予定です。

日本の色彩史を調べるための主要な史料・資料

色彩史を調べるときに手がかりとなる主な史料・資料です。歴史書、法典、文学作品、現存する染織品などでは、それぞれ確認できることが異なります。

年代時代史料・資料種類色彩史で確認できること
712年奈良時代『古事記』歴史書712年に成立したとされる、現存する日本最古の歴史書。赤、青、黒、白などの色彩語が記されており、古代における色の表現を調べる資料になる
720年奈良時代『日本書紀』歴史書日本最初の勅撰国史。冠位十二階をはじめ、それ以前の服色や色彩に関する出来事も記録されている。出来事の年代と、書物が完成した720年を区別して読む必要がある
8世紀中頃奈良時代正倉院宝物物的資料天平期を中心とする染織品などが現存する。染料、素材、染織技法、現在残る色彩などを物的資料や科学分析から検討できる。ただし、現在の色が制作当初の色をそのまま保っているとは限らない
751年奈良時代『懐風藻』漢詩集現存する日本最古の漢詩集。赤、紅、丹、朱、黄、緑、翠、碧、青、紫、玄、白など、漢詩に用いられる多様な色彩表現を確認できる
8世紀後半奈良時代『万葉集』和歌集茜、紅、丹、紫、縹、月草、鴨の羽色など、多様な色彩表現が登場する。自然、衣服、感情などがどのような色の言葉で表現されたかを考える資料になる。8世紀後半に現在の形に編纂されたと考えられている
797年平安時代『続日本紀』歴史書『日本書紀』に続く勅撰国史。奈良時代の服制、服色規制、制度変更などを調べる際の基本資料となる
905年頃平安時代『古今和歌集』和歌集日本最初の勅撰和歌集。自然、季節、植物、衣服に関わる色彩表現や、平安時代の美意識を考える資料になる
927年平安時代『延喜式』法典律令の施行細則を集大成した法典。「縫殿寮・雑染用度」などに染色材料とその分量が記録されており、古代の染色材料や染色法を復元的に検討する重要な根拠となる。927年に完成し、967年に施行された
1008年頃平安時代『源氏物語』文学作品平安貴族の装束、重ね、自然、季節に関する色彩描写が豊富。制度上の服色とは異なる、色の組み合わせ、美意識、人物表現などを考える資料になる
11世紀初頭平安時代『枕草子』随筆色、衣装、自然、季節感についての記述が豊富。平安時代の色彩表現や、作品に表れる色の美意識を考える資料になる

色彩に関わる主な制度・出来事

文献や染織品などの「資料」そのものとは別に、色彩史を考えるうえで重要な制度や出来事があります。

ここでは、服色制度を中心に、飛鳥時代から平安時代までの主なものをまとめます。

年代時代制度・出来事色彩史上の意味
603年飛鳥時代冠位十二階冠の色によって位を表したとされる制度。『日本書紀』に制定の記事がある。ただし、603年当時の史料がそのまま残っているわけではなく、具体的な冠の形式や配色には研究上の問題が残る
647年飛鳥時代七色十三階冠冠位制度の改定。紫など、色や染織材料と冠位との関係を示す記述がある。ただし、具体的な冠・服色の体系については史料批判が必要となる
701年飛鳥時代大宝律令制定唐律令の影響を受け、位階と服色を含む服制が整備された。大宝令そのものは現存せず、逸文や後の養老令などから内容が復原されている
718年奈良時代養老律令撰定後に757年から施行された律令。衣服令には、深紫・浅紫・深緋・浅緋・深緑・浅緑・深縹・浅縹など、位階に応じた服色が規定されている
757年奈良時代養老律令施行718年に撰定された養老律令が施行される。古代の服色と身分の関係を考えるうえで重要な制度となる
820年平安時代天皇の服色に
黄櫨染を採用
弘仁11年、天皇の袍に黄櫨染が定められたとされる。天皇の服色としての黄櫨染の成立を考えるうえで重要。後世、黄櫨染は天皇以外の着用が許されない色となり、近現代の色彩解説では「絶対禁色」と呼ばれることがある
967年平安時代『延喜式』施行927年に完成した『延喜式』が施行されたとされる。「927年」は完成年、「967年」は施行年として区別する必要がある

資料によって分かることの違い

色彩史の資料は、その性質によって確認できる内容が異なります。

法令・制度に関する資料

律令や衣服令などからは、身分と服色の関係、使用を許された色、規制された色などを調べることができます。

ただし、法令に色名が記されていても、その規定が常に同じように運用されていたとは限りません。制度の制定や改定と、実際の使用状況は分けて考える必要があります。

また、古代の法令には原文がそのまま現存していないものもあります。後世の史料に引用された文章や、他の法令との比較によって内容が復原されている場合があることにも注意が必要です。

歴史書

『日本書紀』『続日本紀』などの歴史書には、冠位、服色、儀式、染織などに関する記録があります。

歴史書を利用するときは、記録された出来事の年代と、その書物が編纂された年代を区別する必要があります。

たとえば、603年に制定されたとされる冠位十二階について記している『日本書紀』が完成したのは720年です。出来事と記録との間に時間差があることを踏まえて読む必要があります。

文学作品

『万葉集』『古今和歌集』『源氏物語』『枕草子』などからは、自然、季節、衣服、感情などに関する色彩表現を確認できます。

文学作品に登場する色は、法令で定められた服色とは性質が異なります。色名が象徴や比喩として使われる場合もあるため、色名だけを取り出すのではなく、前後の文章や作品全体の表現を含めて考える必要があります。

染織品・物的資料

正倉院宝物などの現存資料からは、素材、染料、織り方、染色技法などを調べることができます。

文献に記された色名とは異なり、実際に制作されたものを調べられる重要な資料ですが、現在見えている色が制作当時の色と完全に同じとは限りません。

光、湿度、経年変化、保存状態などによる変色や退色を考慮するとともに、必要に応じて染料や素材の科学分析とあわせて検討する必要があります。

古い色名と現在の色見本

古い文献に色名が記されていることと、その色を現在の色見本として再現できることは別の問題です。

当時の色を検討するには、少なくとも次の点を確認する必要があります。

  • 色名が記された文献
  • 文献が成立した年代
  • 色が使われた地域や場面
  • 染料や顔料の種類
  • 媒染や染色の方法
  • 使用された素材
  • 現存する染織品や美術品
  • 後世に加えられた解釈
  • 変色や退色の可能性

同じ色名でも、時代、地域、素材、染色方法によって色合いが異なることがあります。

また、後世に作られた色見本や現代のカラーコードは、古い色名を理解するための一つの目安にはなりますが、その数値が過去のある時点に存在した「唯一の正しい色」を示しているわけではありません。

そのため、このサイトでは伝統色を一つのカラーコードだけで断定せず、色名が使われた史料、染料や染色法、現存資料、後世の研究など、それぞれの資料の性質と限界を確認しながら紹介していきます。

このページについて

このページは、日本の色彩史を調べる際に参照する主な史料・資料と、色彩に関わる制度や出来事の概要をまとめたものです。

現在は、確認を進めた飛鳥時代から平安時代までを掲載しています。鎌倉時代以降についても、原典、翻刻、研究書、公的機関の資料などを確認しながら順次追加していく予定です。

成立年代や解釈に複数の説がある場合は、一つだけを正解とせず、主な説や史料上の注意点を示します。

また、新しい研究や資料によって内容を見直す必要が生じた場合は、随時修正・更新します。

参考文献・資料

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